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2010年9月22日 (水)

ビブスをあまり使わないワケ

(2005年7月・通信No.25より)

スクールではミニゲームの時にほとんどビブス(ゼッケン)を使いません。が、決してケチっているわけではありません―確かに使用したまま放っておくと子供達の素晴らしき“あせ”が見事なまでの成長を遂げ“くさっ!”に変化しますので、使ったらこまめに洗濯しなくてはなりませんが、洗濯の手間などを惜しんでいるのではありません。そんなビブスを子供達に渡すとみんなかなりエキサイトして臭いをかぎます。そして「くせー!」と叫びますー達成感のみなぎった顔で...。何なんでしょう、あの顔は。
話を戻します(汚い表現が多くてすみません - お食事中の方、特にすみません)。
さて、なぜビブスをつけないのか・・・それは、やはり子供達がすごいからなのです(やっぱりこの答えか!)。
今からもう6~7年前でしょうか、あるサッカーイベントの1コーナーに“参加希望者で4対4をやる”というものがありました。もちろんチーム分けなどはスタッフが行うのですが、まず参加希望者を募り、一列に並ばせ、前から順に4人ずつ区切りチームを作り、2チームずつ対戦をさせる,1試合数分でゲームをどんどん行っていくという形でした。その時、なんと、チーム分けの際に使用するはずのビブスが“ない!”という事態が起きました。でもゲームは行わなくてはなりません。子供達は並んで待っているのですから。初めて会った子達でチームは作られています。しかも、学年が違い、サッカー経験も様々。服装などはさらにバラバラ。もちろん名前など知らない者同士です。試合はどんどん進行して行くので試合前に名前などを覚えておく時間はありません。しかも自分の番の試合が終わるともう一度列に並び、また順番がくると4人チームを作ってすぐ試合に出て行きます。もう一度列に並ぶ子がいたり、いなかったりで、毎回少しずつメンバーが変わっていきます。毎回違う子とチームを作って試合を行うことになります。それをゼッケン(=同じチームだとわかる目印)なしで行っているのでした。
私は、この状況で子供達がどんなプレーをするのか、興味津々でした。臭きビブスの臭いを嗅ぐときの子供達と同じ状況です。
初めて会ったばかりの子で結成する即席チーム。しかもビブスなし。さて、どんなプレーだったのでしょう...。
―(試合をする子が)まずわかっていることーそれは、自分の攻める方向と守るゴール。
みんなボールが自分のところにくると、まずは唯一自分のわかっていることー自分の攻める方向にボールを蹴るーをします。蹴ったあとは、そのボールを拾うのが相手チームなのか自分のチームなのか、運任せ。しかし運任せだけではうまく行きません。たまたま自分のチームの子がボールを拾った時にはシュートにつながりますが、相手チームの子がボールを拾うことも多く、シュートまで行かない方が多いのです。
―すると、これじゃ駄目だということで(たぶん)、ボールが来ると自分でドリブルをしてゴール方向に持ち込もうとするプレーが多くなりました。自分一人でゴールまで持っていければ話は早いです。もちろんパスをできれば簡単なのでしょうが、周囲の顔を見ても味方か相手かわからないので、とりあえずドリブルするのです。そして、ドリブルからのプレーが格好よく決まることがちょっと出始めます。
-しかし、ボールを持った選手に対しては、その攻める方向を見て、「こいつは相手チームだ。邪魔をしなくては」ということで、守る選手がボールを奪いに行きます。ドリブルをすればするほど、周囲の選手がその選手のことを認識してきますから、ボールを奪いに行く選手が増えてきます。やがて、ドリブル突破が難しくなり、一人で持ち込むのにも限界が出てきました。
そんなプレーを続けていくうちに、おや、パスが出始めました。
ドリブルをする選手を見て、その攻撃方向から味方だと判断した子が、一緒に動き出したのです。
コート内の子の、「あいつは味方だ」「こいつは相手だ」という認識が深くなり始めたのです。
前に書いた通り、味方の顔や名前を試合前には覚えていません。実際、パスをする時も名前を呼んでなどはいません。自分がボールを持った時に誰が奪いに来るのか、他の子がボールをどっちに蹴ろうとしているのか、そんなことを見ながら、自然に味方と相手を認識できるようになっていたのです。数分の中で。
いくらなんでもそれは難しいはず、でも、なぜそんなことが可能になったのでしょうか。
それは、ボールの状況によって、ボールのそばにいる者、離れた所にいる者が、その時に自分にできること、それをしていたからです。自分の守る方向に戻り守ろうとする、自分の攻撃する方に行って攻撃する(味方を援護する)・・・唯一自分のわかっていたこと、それを動きに表しただけです。
それをしたら、何ともすごい吸収力で、それらの状況の組合せから、味方・相手の認識ができるようになってしまったのです。そして、初めて会った子が行うゲームの中でドリブルやパス、様々なプレーが出るようになっていったのです。これを見ていて、まさにサッカーの、子供のサッカーの原点だなと思いました。

(今はないかもしれませんが)空き地で遊んでいて、誰かが来て、サッカーをやろうということになる。また仲間(といっても知らない子だったりする)が現れる。子供達で「お前はあっち」「お前はこっち」と分けていく。もちろん、服装なんてバラバラ。でも、ちゃんと2チームでサッカーをして、やってる時は無我夢中で、終わるとなんか楽しくて、満足。また会えるかわからないけど、「じゃあねー!」「バイバーイ!」で終わり。「あー楽しかった」そんな子供のサッカー。色んなことの詰まっている、子供のサッカーです。
・・・・・すみません、ちょっと遠い世界に行ってしまいましたー話をもどしましょう。

そう、この光景を見て、子供達はやっぱりすごいやと思ったのです。
サッカーでは、“判断の速さ”がよく問題となります。それを養うのは必要なことです。場合によっては、フェイントに無理やりチャレンジさせることは、そういった判断の速さを養うことを妨げるように言われますが、それは違うと私は思っています。また、ビブスをつけないでゲームを行っていると、瞬間的に相手・味方の認識ができないので、絶好のタイミングでパスを出す瞬間を逃すこともある、瞬間的な判断を養うことを妨げるというようなことをたまに聞くこともありますが、やはりこれも違うと思うのです。
なぜなら、子供達は、“瞬間”に目に入る状況を認識できるようになる力があるからです。
ボールの状況による自分以外の子の動きから、相手・味方を認識できるようになり、自分がそれに合わせて動くことができる。それを繰り返して、その動きがつながって、より判断が速く、深くなるのです。
ビブスなしでゲームをしていて、一見遅いと思われるプレー。実はその“遅い”の中には恐るべし“速さ”が入っているのです。だって、目印のない状態で、味方と相手を認識するのですから。それをプレーに表すまでには頭の中で様々な判断があるはずです。しかも、なかなか判断できないでボールをキープしている状態でも、そんなことを考えながらボールをキープしているのですから、大したものなのです。
目印のついていない選手の動き、その動き方から、「この動きは味方だ」と判断してパスをしたり、なかなかです。さらに自分がパスを出そうとした時に2人の選手が目に入った場合、2人の位置関係や動きの様子から「こっちが味方、あっちが相手」と判断して、その状況にあったパスを出すーやっぱりすごいです。
もちろん、味方だと思ったら相手だったり、相手だと思ったら味方で、思うようにプレーができないときもありますが、それはそれでおまけのような魅力を持ってます。それによって、さらにとっさの判断、動きも生まれます。スクール的には“オチ”も生まれます―こんなことも必要です。
味方とプレーするには、“自分にできることをする”必要がある。それをしなければプレーに入れない、ボールに触れない状態になりますから、そんな、大切だけど意外と実行するのは難しい力をしっかりと養えます。もちろん、周囲の子を覚えようとする姿勢、その状況への適応力も養えます。
さらに、プレー面だけでなく、声を出して伝えること、動いて伝えることといった、「相手に伝える・相手の伝えることを感じる力」、本当に大切な力も養えるのです。それもゲームを楽しみながら。
子供達はとても自然にそんなことをこなし、成長しています。だから、ビブスをつけないことが多いのです。
その中でプレーするだけで様々な状況が生まれ、様々な判断力、基本的な力、色んな力が身につくのです。
もちろん、練習の残り時間や学年、人数、メンバーなど様々な要素の組合せによっては、ビブスをつけた方がそういった効果を生み出すこともありますから、ビブスをつけて行うこともありますが、ビブスをつけないでゲームを行う背景には、そんな考えがあったりします。やっぱり子供はすごい。だからこんなこともできるのです。
*あくまで、今、スクールに集まっている子を対象とした話です。チーム練習の事情とは異なりますのでご了承下さい。

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