相手をバカにするプレー
(2008年9月 通信No.74より)
子供の時に、遊びのような感覚の中で覚えた方が良いプレーはたくさんあります。
そのようなプレーの中で、その習得する過程を見るコーチとして非常に見方、捉え方に苦しむのが、「相手との駆け引きを楽しむプレー」です。
普通に、「対決」という感じで駆け引きをしていれば捉えやすいのですが・・・。
子供が遊びのような感覚で、成長する範囲内で、相手との駆け引きを楽しんでいるのかどうかという捉え方が、非常に難しいのです。
例えば、“相手”対“自分”の、“1”対“1”の対決形式の練習で、もう相手を抜き去っていてシュートを打てる状況なのに、わざと相手が守りに戻ってくるのを待ち、その戻ってきた相手を再びかわす、そして、また、シュートを打たず、わざと隙を見せるようなふりをして、またボールを取りにきた相手をかわす・・・なんてことを子供がすることがあります。
見ている大人としては、何度もかわされる子も大切な子なので、その子をバカにしたようなプレーはさせたくありません。これはその時のお互いの表情を見て感じることなので、状況にもよりますが、そのようなプレーをされる子のことを考えても嫌ですし、子供がそういうプレーをするのを見るのも嫌です。
そのようなプレーを見ていると、「お前、ふざけるな」と言いたくなります。
ですが、実は、この、わざと隙を見せておいて、相手がきた瞬間にかわすことや、自分が余裕を持てる範囲を計りながらプレーすることを覚えることは大切なことなのです。
相手との間合いやタイミングの取り方を覚えていく上で、遊びながら何度もやることは必要です。その中で、何種類ものかけひきを覚えていくことができます。そんなかけひきには、何とも説明しようのない相手との「間」をつかむ感覚であったり、ぱっと何かをイメージする頭の働きであったり、そういうものがたくさん詰まっています。また、何度もボールを取りに行く子も、その経験を繰り返す中で、「こう走ったら、このタイミングで相手が動くかな、こうやって俺を抜こうとするかな」という感覚をつかんでいくこともでき、何度抜かれたとしても、ボールを取りに行く子にはメリットがあります。
ただ、コーチとして、こういったプレーを見る時に気をつけなければならないのは、これらのかけひきを楽しむプレーは、ただ「相手をバカにするだけのプレー」にも変化することがあるということです。
ふざけているように見えても、お互いに遊びの範囲内で、「対等な立場」で、相手をバカにしているように見えるだけなのであれば、問題はないと私は思います。もちろん、見ている側として心理的には苦しいですが、もっと奥を見なければならないし、もっと先を見なくてはなりませんので。
でも、(バカにされているように見える)一方の子が、全力でやって負けるのが恥ずかしいから、余裕でやっている子に対して自分もふざけたような感じで対応するというのは、これは、この子が自分で負けると思っている時点で、「対等な立場」とは言えないので、よくないと私は思っています。
何度行ってもかわされる、現段階では相手の方が上といような状況で頑張るのは大変かもしれませんが、バカにされているように見える子が頑張るべきだと思います。
ふざけてやっているように見える相手、余裕を持っている相手は、実はちゃんと距離を図っていたり、動きのタイミングを計っていたりして、結構、頭を使ってプレーしているのです。だから、手を抜いている、バカにしているように見える“見かけ”ではなく、中身に対して、対等に行ってほしいと思います。
表面上は簡単に負けちゃいそうな顔をして油断させておきながら、いきなりガッと奪いに行くとか。こういうのは、こちらも別にふざけているわけでもなく、しかも、あきらめているわけでもないので、関係としては対等です。もしそれでかわされてしまっても、「ちくしょう」「ちぇっ」と思えますから。もちろん、表面上も中身も全力で取りに行く、何度かわされても恥ずかしいなんて思わず、ただボールを奪いたい、悔しいから取りに行く、そういうプレーをできる方がすごいと思いますが。
また、相手をバカにしているように見える子が、一生懸命な相手に対して、本当にただバカにしているのなら、それも対等な立場とは言えないのでよくないと思います。
バカにしているように見えても、相手の全力に対して、実はちゃんと準備をしている、そして、わざと隙を見せる、というのならいいのですが、そうではなく、ただ実力差を見せたいだけでプレーしていたり、自分に対して全力で来ている者をバカにするだけのプレーをしたりというのは、成長につながるとは思えないので、よくないと思います。
そんなことをしていたら、努力することの大切さをわからなくなってしまうかもしれません。そうなってしまったら、本当の成長、大きな成長を続けていくことはできません。
実は、7月のU-9クラス、ある曜日の練習ではこんなことが繰り返されて、上のどちらにも当てはまる部分があったので、見ていて、捉え方、評価の仕方が非常に難しいことがありました。大人としては、どちらの子のことを思っても、相手をバカにしているように見える時点で注意をしたくなるところなのですが、その行為の中に含まれていることが、ただバカにするだけということとはちょっと違うので、また、相手の子の吸収力、成長力を見ると、言葉を飲み込む必要もあり・・・。
このように、大人から見たらなかなか理解できないようなこともある、非常に難しい中で子供たちはサッカーをすることもあります。成長していくこともあります。
子供たちは、せっかく色んな子に関わり合える場に来ているので、お互いの存在として、同じ立場で対等に、その上でバンバンぶつかり合いながら、成長していってほしいと思います。
そして、そういう場になるように、子供たちのプレーを注意して見ていきたいと思います。
*高学年の子なんかでは、これに戦術的な意味も含めて、「そのプレーは良くない」ということもあります。また数年前は、U-15クラスの子に、その後のことを考えて、敢えて私たちが子供たちをバカにするようなプレーをし、その中でさらに差を示し、そういうバカにされたような状況でも自分は全力でやらなければならないことも伝えました。中学、高校では相手をバカにしたようなプレーをする子も出てくるかもしれませんから。でも、そこまでの技術を身につけるには相当努力をしたはずです。もちろん、努力をして上手になったら相手をバカにしていいということではありませんが、それまでの努力の結果としての現状(自分がそれまでに頑張っていた以上に、そいつはそれまで頑張っていたということ)もわかった方がいいですし、それをわからずに、ただ相手がちゃんとやらないことに不満を持っていてもしょうがないので、(それに最終的にはそんな相手も乗り越えなくてはならないので)そんな話もその時にはしました。
非常に難しい、微妙な部分もありますが・・・。
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