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2010年9月23日 (木)

さまざまなプレーに含まれたもの

(2006年7月 通信No.45より①)

■「なんで?」と思えるプレーでも・・・
いいプレーがたくさんあります。
例えば、相手チームの選手が触ったボールが、ラインの外に出そうになった時のプレー。
放っておけば自分のチームのボール(スローインやキックイン)になるのに、ボールが外に出る前に触ってしまう。そして相手にボールを奪い返されてしまったり、不利な状態になってしまったり・・・。
「なんで触るんだ?」と思うかもしれませんが私はそれを子供たちに「良いプレー」だと言っています。
逆に、「ボールが外に出るのを待っている」「追いかけてきた相手を自分の体でブロックして、ボールを外に出す」、そんなプレーを子供がした時には「出すなよー!」と言います。
なぜならもったいないからです。
スクールでは、そんな状況の時、「ボールを出さないで、そこから抜いていけ」と言ってきました。
子供によっては、そんなこと言わなくても、ボールを触りたくてしょうがないから、損得に関係なく触り、そこから抜いていこうとする子もいます。しかし、残念なことに、ちょっと知恵がついてしまった子は、そこでは触らない方が自分やチームにとって有利なので、触らないことも出てきます。
最近、実はそういうプレーが数回見られました。これが残念でなりません。
以前は「触らない方が得」なんてことはわかっていても敢えてボールを触っていた子が、ボールが外に出るまで待っている・・・こんな時の方が私にとっては「なんで(触らない)?」と思います。前までは、何も言わなくても、状況を理解した上で、自分で触っていたのに。
おそらく、その方が、
◎自分(チーム)がより良い状態でスタートできる ◎失点しないですむ(逆に得点チャンスになる)◎自分が失敗しないですむ ・・・他にもたくさんの理由から、チームや自分にとって得だと思えるからなのでしょう。―が、そういう当たり前のプレーはもったいないなぁと、思ってしまうのです。

確かに、もっと上の年代では、そういうプレーが見られます。それは組織を理解し、戦術を理解し、どういう状況で、どう攻めていくか(守るか)を理解し、それを実践する段階だからです。また、それらを実践する中でさらに技術を確認していく段階にあるからです。しかし、子供たちは、その(将来)実践するための力を、今、身につけている最中です。だから私は成長するためにも「触れ」と言うのです。
ちなみにそんな状況でボールに触ると、相手が背後からボールを奪いに来ている時には(相手が後ろにいるので)自分がボールを持ちながら前を向くのも大変な状況になります。前を向くために、相手を騙すテクニックが必要になったり、相手の力(当たりにくる力)を利用して反転する感覚、バランス感覚・・・様々なものが必要になります。逆に言えば、様々なことを吸収できるチャンスなのです。
しかも、2人、3人と、ボールを取りに来る選手が多ければ多いほど、さらに色んなことが必要になり、より多くのことを吸収できます。
技術や経験により、まだ「前を向く」ような余裕が持てない段階であれば、自分のボールにする(キープする)だけでもいいでしょう。相手が背後にいる状態でボールをキープするのは大変なことです。だいたい、出そうなボールを止めるだけでも結構大変なんです。もし相手が奪いに来ていなくて、すぐに前を向ける状態だったとしても、自分のイメージしたところに止めたりボールを動かせたら、たいしたものです。そうしようと思うだけでも、すごいことです。
スローインやキックインのように、自分がボールを触るまで相手が待っていてくれるわけではありませんので、有利な状態からはほど遠い、大変な状態からのスタートです。
こういう状況を脱出することや、自分のテクニックを試すことに楽しさを見出す子もいますが、何かに挑戦した時の充実感は安易なプレーから得られるそれよりもきっと強いものだからなのでしょう。だから、より大変な状況でも挑戦できるようになっていくのだろうと思います。
ちなみに、こういう、相手選手からのプレッシャーが厳しい状況でもボールをキープできたり、何かをしようと思える選手は、普通の状態(相手が前にいるくらい)では、かなり自然にプレーできるようになります。それは当然ですよね。普段から大変な状況でプレーしていれば、そこまで大変でない状況では「大変だぁ、どうしよう!!!」なんて焦らないですみますから。
また、“挑戦”から生まれるプレーなので、技術だけでなく、気持ちがどんどん強くなっていくことは言うまでもありません。気持ちの成長×技術の成長×気持ちの成長×技術の…×…×…という感じです。
こんな理由で、この「なんで触るの」というプレーは、私は実に良いプレーだと思うのですが、皆様いかがでしょう。

■「よくやった」と思えるプレーでも・・・
「んー・・・・」と首を傾げたくなるプレーもあるのです。
例えば、相手選手と接触して転倒した時に、しばらく倒れたままになってしまうこと・・・。
痛い時にはしょうがないと思います。でも、以前は同じ状況ですぐ立っていた子なのに立たない(立とうとしない)、或いは、以前はよけたり、転倒しないように踏ん張れたのに、よけないで、踏ん張ろうとしないで、転倒したまま・・・実はこういうプレーもここのところ数回見られました。
これまではそんなの乗り越えていた、乗り越えようとしていた子が、簡単に転倒し、倒れたままにしているのを見た時は本当に残念でした(転倒することが必要な場合のことは除いてお話します)。
転倒して反則をとってもらい、フリーキックになれば自分(チーム)が有利な状態でスタートできます。もしかしたら、それで「良かった」経験をしたことがあるのかもしれませんが、成長の面から考えると・・・。
バランスが崩れかける・崩れた状態からバランスを回復させる力、バランスが崩れた状態でプレーする(バランスを何とか保つ)力を身につけるチャンスなのに・・・。しかも、危険を避ける力も、「避けよう」という気持ちから体が動き、動きがどんどん良くなっていくのに・・・なんて思ってしまいます。
倒れそうになった時や倒れた時、プレーを続けると、その結果、その後のプレーがうまくいかない、相手にボールを奪われてしまう、失敗してしまうなんてこともあるでしょう。損するような感じもします。
それでも、初めの話と同じ理由で、その方が成長するだろうと、私は思います。
ちなみに、スクールでは、基本的にはゲーム中にほとんど反則を取ることはありません。
反則をした個人に対し「今のは反則だ」と知ってほしい時には伝えますし、全員に認識が必要だと感じた時や他の必要性を感じたときには反則を取りますが、基本的には自分達で「気づけ・乗り越えろ・(双方が楽しくプレーできる環境を)整えろ」という感じでやっています。
また、子供が「反則かどうか」を誤解しているような時にはそれを伝えます。
ちょっとそれますが、“反則をしたから”(審判が反則と判定したから)相手に謝るのではなく、審判の判定に関わらず、わざとであるか・ないかに関わらず、自分で「悪い」と思った時には謝ること・気持ちを伝えることは必要だと、必要な時には子供たちに話しています。高学年にもなると、意図していなくても、結果的に自分のしたことが反則になってしまった時などは、自分でプレーを止め、相手ボールにします。
今の損得なんて小さなものではなく、乗り越えられるものは乗り越え、気持ち・身体面ともに成長して、もっと大きなものを摑んでいってほしいと思っています。

■気持ちはわかるプレーでも・・・
やはりもったいないプレーがあります。
点を取りたいから相手ゴールのそばで待つ、または、負けたくないから自陣ゴール前から滅多に離れないというプレー。こういうプレーをすることが悪いというのではありません。
勝ちたい・負けたくないという気持ちや責任感から、そういう位置にいることもあるのだと思います。きっと、そういう位置にいることで、実際に「勝つ」経験、「負ける」経験をしたことがあるのでしょう。
でも、「勝つ」「負ける」を繰り返すことよりも、どんなプレーをしているのか、個人の成長を考える時にはここが重要です。
ほとんど動かず、ポイントポイントでボールを触る・・・。ただ、勝敗から見ると決定的な場面でボールを触るので、十分にボールを触っているようにも見えるかもしれません。本人も満足しているかもしれません。が、実際にはゲーム中にボールを何度、どのように触ったのか、どんな刺激が入ったのか・・・。
例えば、点を取るために相手ゴール前でずっと待っているケース。それでもちょっとはドキドキするでしょうから、得点するのは難しいのかもしれませんが、ただ、それを繰り返していても、かなり自分が有利な状態からのスタートなので、様々なテクニックが身につく年代だということを考えると、とてももったいなく思います。
また、失点を防ぐためにずっと自陣ゴール前にいるケース。
相手が攻めてきた時に、ただボールを跳ね返す・・・これはさすがにスクールでは見られません。そこからドリブルで相手を抜いて行きます。ドリブルで一番後ろから抜いて行くのは大変なので、これでいいかとも思うのですが、そういうタイミング・状況からは相手を抜く技術をすでに持っている子の場合は、もっと違う形にも挑戦するべきです(もちろん、グラウンドの前から後ろまでボールを追いかけまわり、それで自陣ゴールから相手ゴールまでドリブルで行くプレーはとてもいいと思います)。
一番後ろ(自陣ゴール前)に止まっていると、相手がボールコントロールを失敗して(ボールを大きく蹴ってしまったりして)奪い易い状況になることも結構あります。そういう形でばかり守っていては、相手のスピードや動きに反応する力や、相手との距離を測りながらボールを奪う技術は身につきません。
せっかくゲームをしているのですから、色んなところに動き、色んなところでボールをもらう・奪う経験をした方がいいでしょう。
いつも同じ形でばかりボールを触ったり、プレーが同じようなものが多くなるのでは、そのプレーだけを抜き出して練習するのと同じです。むしろその方が同じ行動を短時間で多くの回数できるでしょう。でも、これではゲームをやる意味がありません。
勝ちたい気持ち、これは否定しません。が、「勝ちたい」と思うことが原因で成長する機会が減るのはあまりにももったいなく、これは(子供はそのプレーに満足していることもあるので)子供ではなく、大人が言ってあげることも必要なのではないかと私は思っています。
彼らは“今”結果を出す年代ではなく、“後”で結果を出すために「成長」する年代です。
これからもどんどん“損をするようなプレー”をしながら、成長していってほしいものです。
そして、その過程での成長こそが、今の彼らにとっての結果なんだと私は思っています。
子供としての結果=“成長”のために必要なプレーを、どんどん応援していきましょう。

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