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2010年9月25日 (土)

持って帰れ

2008年3月 通信No.68より

U-12クラスのある曜日-子供たちが楽しみにしている「ゲームをたくさんやる日」です。
ウォーミングアップで基本的なテクニックを練習し、その後はゲームをひたすら行う予定でした。
もっとも、「ゲームをひたすら行う」といっても、時期的には来月で一年間の練習が終わり、さらに6年生は来月で一度「卒業」という形になり一区切りになるので、上手にならなくてはなりません。
また、ここで大けがをしてしまったら、今年度内に復帰するのは難しくなるので、気が緩んでのケガなどは絶対にさけなければなりません。
そんな日のウォームアップ。
グループを3つに分けて行ったのですが、練習に取り組む雰囲気が各グループで全く異なりました。
1つのグループは、学年、技術レベルがバラバラです。経験の長い子も、まだ経験の浅い子もいます。
練習中は、きっとお互いに意思疎通が難しい時もあったと思います。それでも、自分のため、友達のために練習に一人一人が取り組んでいました。仲良しの子が集まってやっているわけではないので静かですが、グループ全体として練習にしっかり取り組んでいて、経験値に関係なく一人一人が上手になる雰囲気でした。
2つめのグループは、学年が同じ子が多く、仲の良い子も集まっています。しかし、経験値に多少バラツキがあるので、例えば相手にボールを蹴ってもらうような場面では自分が予想していないボールを相手が蹴ってくるようなこともありました。しかし、仲が良いからこそ出る、相手を気遣う声や相手に要求する声を出し合うなど、うまくできない部分をお互いの仲の良さで補いながら練習していました。自然な声、楽しそうな声がたくさん聞こえる雰囲気で練習していました。
そして、3つめのグループ。ここは学年が同じで仲の良い子が3人、それに、学年は違うけどその3人と仲の良い1人。そして、学年の違う子1人。しゃべりながらやったり、失敗して他の子に迷惑をかけてもおかまいなしであったり、みんな同じ感じです。ただ、「同じ感じ」でもお互いのことを尊重しあっているのではなく、好き勝手にやっている、各自で「こんなもんでいいか」と勝手にやっているように見えます。
そのグループでは一度、2人の子の体がぶつかり、もめたことがありましたが、それも、そんな雰囲気の中での行動から生まれるものだったので、うまく消化できなかったようです。その場面では、私はそのグループに行き、話を聞きましたが、やはりバラバラの状態のようでした。
そのグループに(上手にさせるために)働きかけを多くした後、同様に、一生懸命に練習をしている子たちにも働きかけをする必要がありますので、私は他のグループの練習を見に移動しました。
そして、みんなにわかってもらった方がいいことがあったので、みんなを集めてその練習の大切さを説明。
・・・できればここで、その「バラバラ」のグループにも練習の大切さをわかって欲しかったのですが、それでも雰囲気は変わりませんでした。
そのグループには、今とても上手になっている子が2人もいるので、もっと良い形に持って行けるはずで、他の日にはそのような光景を何度も見ています。
でも、この日はそれができない。やろうとしない。
そのグループにあったのは、「仲の良さ」ではなく、ただの「お互いの甘え」です。お互いに「自分がやろうとしなくても何も言われない」ので、弱いところを出し合っているようです。さて、この子たちはゲームでどんなプレーをするのでしょう。予想はつきますが、まずは何も言わずに見てみることに。

さぁ、一度休憩を入れてゲームです。
ゲームでは先程の練習とは全く関係なくチームを組みました。もちろん、色々な意図があります。
プレーを見ていると、そのグループだった子が、いつもなら簡単に決めるようなシュートを外しています。プレーを見れば、シュートを打つ前に、いつものように「決めよう」と思って打っていないことがよくわかります。
そこで、(別に練習は止めず)その子にのみ、「練習の成果はこういう時に出るから、覚えておいた方がいい」と言いましたが、「平気、平気」と言っています。その答え方を聞いて、「こりゃ、わかってないな」ということでもう少し話しましたが、「はい、わかりました」と今度は“形だけの良い返事”が返ってきました。別に周囲を気にしているのではなさそうです(この時はみんなの前で注意するのではなく、そばに近寄って話すようにしました)。
もともと高い技術があるので、「やる気になればできるさ」とでも思っていたのでしょうか。
その後も、普段は失敗しないような場面で失敗して、言葉をかけても気づいていません。
その子が数回失敗した後、先程の練習を一生懸命やっていた子が、(練習中に一生懸命にやっていた)ターンを決め、その子にパスを出しました。
「ターンの後に顔を上げる」「ターンの後のプレーを早くする」「早いだけでなく正確にする(相手を見る)」…これまでに言ってきたポイントをその日の練習でもしっかり意識していて、それらを発揮して出したパスです。ディフェンスのプレッシャーを受けながらも、とても正確に、とても適当な強さで出しました。
そして、その「一生懸命練習していた子」からパスを受けてしたシュート。これも、普段のその子なら外さない距離、状況でしたが、やはり外れました。
ここまで来るとこれまでとは違う形で伝える方がいいので、この時にはかなりきつく言いましたが、おそらく本人は、この時点でもまだ「今からやろうと思えばできる」と思っていたのではないかと思います。
その後は、急に本気になりプレーをしていましたが、それでもやはりミスが目立ちます。もちろん、私に注意されたことで冷静になれないという部分もあるでしょうが、力が入りすぎている様子ではありません。
いつもと同じようにやっているように見えないでもありません。でも、明らかに、彼の技術ならしないようなミスを多くしています。そんな中で、強引なドリブルから力強いロングシュートを一度決めましたが、ただのわがままのプレーで、「ナイスプレー」ではありません。その後もミスは目立ち、最後までこの子の本来の力は発揮されませんでした。
・・・この子はかなり良い選手です。
実は、この子がいない時に、その場にいたみんなにこの子の良さを話したことがあります。ちょうどこの子のすごさをみんなに話した直後にこの子が来て、この子にはみんなに誉めたことを内緒にしたままでプレーさせたことがありました。そのゲームでは良さを見事に発揮して、その直前に話を聞いていた子たちが本当に驚いてその子のことを見ていたのを覚えています。そんな力のある子です。
でも、この日は違ったということです。
別にリラックスしているとか楽しんでいるというレベルであれば、途中から真剣モードに切り替えても力を発揮できるのでしょうが、自分が本来できることをしないままゲームの準備をしていたら、ゲームで本来の良さを出せないのはあたり前です。
(前にもお話ししたかもしれませんが)だいたい、一生懸命に練習に取り組んだ子とそうでない子で、満足度に差がないような練習、成長に差がないような練習を私は考えません。同じ子でも、一生懸命にやっていた日とそうでない日でゲームで同じ「楽しさ」を経験できるというようなことは、まずありません。
・・・・また、この日は、この子が相手をドリブルで抜きに行った際に、相手の足がひっかかり倒れた場面もありました。相手選手の反則です。普段、こういう場面でも私は滅多に笛を吹きません。特にこの子の場合は、こういう場面でもすぐに立ち上がり平然とプレーを続けることが多いので、相手選手の反則をとることはありません。しかし、この日は良い部分も悪い部分もより正当に評価した方がいいので(本人に対して、より公平な形でプレーさせた方が、本人も自分の良し悪しがよりわかるので)、笛を吹いて反則をとろうかと・・・思いましたが、口まで持っていった笛を吹くのを私はやめました。その時の倒れ方を見たからです。
普段なら、相手の当たりを避けきることができなくても、続けてプレーするために極力倒れない体勢をこの子はとり、ドリブルを続けます。倒れてしまっても、すぐに立ち上がれる体勢をとります。でも、この時は違いました。
倒れることを想定しての足の動き。ひっかかったまま。十分すぎるほどの受け身の取り方。本来のこの子にはないプレーです。ここで笛を吹いたらさらにこの子のプレーは悪くなるので笛を吹くのをやめました。
すると、足をかけてしまった子が自分の反則に気づき、倒れているこの子にボールを渡しました。
ですが、この子は「いいよ、続けろよ」と言って、倒れたままそのボールを相手に返しました。
きっと、この子だって、それが自分の本当のプレーじゃないなんてことはわかっているのでしょう。
この日、いつもなら、うるさいくらいに話をして元気に帰って行くこの子は、とてもつまらなさそうに帰りました。私は「じゃあな」とだけ言い、他には特に声をかけませんでした。
もう、自分で十分にわかっているはずです。
これまでにも色んなことがあって、その度に成長してきた子です。
あとは、また今度スクールに来た時に、ちゃんと練習で成長を見せてくれるはずです。それを待つだけです。
さて・・・この子はその3日後に練習に来ました。
練習開始後、「ヘッド」か「キャッチ」のどちらかを相手に指示する2人組の練習では、「ヘッド アンド キャッチ」と言い合いながら(←本当はこんな指示を出したら相手が困るのですが・・・)楽しみ、でも、ちゃんと互いに協力すべき部分では協力して練習をしていました。いい表情です。
もちろん、この日のゲームではいつもの良さを発揮していました。

子供たちは、日々、色んな表情を見せます。子供なのでたくさんのことを経験してほしいと思います。
ゲームは、もちろん練習の成果を発揮する場であるのですが、この年代の子は、ゲームの中でも本当に成長します。
ゲームに向かう練習での取り組み方次第で、ゲーム中にどれだけ成長できるかが決まります。
そして、ゲームでは、ただ上手くできたかどうかではなく、この成長の幅の方が大切なのです。
スクールは1日で終わりではありません。継続して子供たちを見ていくことができます。
だから、「毎回楽しく帰れる」なんてことじゃなくてもいいと思っています。
その日、自分がどれくらい挑戦したのか、頑張った場合もそうでない場合も、ちゃんと、“その日の自分”への相応しい成果として、その時の気持ちを持って帰ってほしいと思っています。そして、その時の気持ちを覚えておいてほしいと思います。

今年度の練習も残りわずかですが、年度最後のゲーム時に、みんなが一番良い、成長力を持ったプレーをできますように。

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